旅行・出張の新しいカタチ―知って役立つ旅のトレンド手帖―2旅は思い出作り。- 若いうちに質の良い旅行を体験してほしい -

旅に何を求めるかは、人それぞれでしょう。誰も行っていないようなところに行きたいのか、人気の観光地で憧れのグルメ体験をしたいのか。お金と時間をかけるのですから、後悔しない旅をしたい。その点、時間に余裕のある学生時代は、旅にもいろいろな可能性があるはず。しかし今、若者の旅離れが進んでいるのだそうです。それはいったい何故なのでしょうか? 東洋大学国際観光学部で、観光業界での就職を希望する学生たちに教鞭を執っている島川崇先生にお話をうかがいました。

意外に進んでいる、学生の旅行離れ

は、東洋大学国際観光学部で、将来観光業界で働きたいという希望を持っている学生たちを教えています。そんな学生たちですから、どんどん海外旅行に行ったり、国内もいろいろ巡ったりしているかと思えば、パスポートさえ持っていない子が多いことに最近驚かされます。

大手の旅行会社に就職してパッケージ・ツアーの企画をしたいと言っている学生が、そもそもパッケージ・ツアー(または、旅行会社の利用)の経験がなかったりもしますし、若者の旅行離れは思いの外進んでいると感じています。

私の若い頃は、行き当たりばったりの“エアオン”の旅(※飛行機のチケットのみの購入で、ホテルは現地で手配する旅行)など、みんな普通にやっていたし、バックパッカーも一種のファッションで、格好いいものとされていた頃とは全く対照的です。どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。

“トラベルにトラブルはつきもの”なんて思っていませんか?

者の旅行離れの原因のひとつは、最近の社会情勢にもあるでしょう。海外旅行は危険なものであるとか、旅行先で事件や犯罪に巻き込まれても自業自得だと思う風潮も、それに拍車を掛けているように感じます。だから、旅で冒険をしようと思う人も少なくなっていますし、また、旅行も買い物などと同じように、安ければ安いほど良い、たとえ安い旅行で何か困ったことがあっても、それを当然のことみたいに思ってしまっています。

でも、それはおかしいと思いませんか? 本来、旅は楽しいものです。国際観光学部の学生としてそんな状況はまずいのではないかと思い、現在では1年生全員に大学の負担で観光研修を行っています。これが実に評判が良いのですが、その理由は明確です。学生の旅だからと言って、LCCを使ったり安いホテルに宿泊したりしないことなんです。

質の高い旅をすれば、一生の思い出に。

際観光学部で観光について学ぶ研修旅行は、学生同士で行くものと同じレベルの旅行では意味がありません。LCCではなくフルサービスの航空機に乗り、五つ星のホテルに泊まって、朝はコンビニのパンではなく、きちんとしたホテルの朝食を摂る。そうして、旅のクオリティを若いうちに理解することは、非常に重要だと考えます。

LCCや格安ツアーなどで旅が身近になるのはある意味良いことなんですが、それでは、本当の旅の良さ、質の高い、後々まで思い出に残る旅とはどういうものか、ということを知らずに過ごしてしまうことになってしまいますから。私は、「旅の目的は思い出作りだ」と思っているんです。安宿に泊まって、安い食事を摂って、昨日は40円で済んだなんて安飯自慢もいいですが、それで本当にいいんですか? と言いたいですね。

3年ほど前に私は幼い娘2人と妻を連れて、費用的には少し背伸びして、モルディブへ家族旅行に行ったのですが、娘たちはその時の質の良い素晴らしい旅行体験がよっぽど楽しかったらしく、ホテルのキッズクラブの担当者からもらったサインをいまだに机の横に飾っています(その後の旅行では、そのようなことはありません)。それぐらい思い出に残る旅だったということです。研修旅行に行って高品質の旅を体験した学生たちも同様で、「こんな夢のような体験ができて嬉しい、旅ってこんなに楽しいものなのだ」と感じ、将来観光業界で働くという希望を一層強くしているようです。良い旅を経験し、旅の素晴らしさを実感するということが大事なんだと思います。

旅行の企画者のこだわりが分かるサイト、そしてそれを見極める目を

い出に残る旅、自分ならではの旅を体験するにはどうしたらいいでしょうか。私は、マイナビトラベルのような旅行サイトには、たとえば何かツアーの紹介をするとしたら、企画者の意図、こだわりがわかるような紹介の仕方をして欲しいと思っています。

「私が、この旅を企画しました!」とか「この旅では、ここを見てください!」というように、人の顔を見て、声が聞けるようになると、ユーザーも選びやすくなります。そしてユーザーの側からは、ただ値段だけで見るのではなく、「ここに行ったらどんな体験ができるのだろうか」など、旅のより深い意味まで探って欲しいと思います。グルメなどで「インスタ映え」を競うなら、旅でも同じことをしてみたらどうでしょうか。誰もInstagramに載せていない場所に行って「一番乗り!」と発信してみるんです。友達のインスタに「いいね!」しているばかりじゃなくて、自分が一番乗りになれるような場所を見つけて欲しいと思います。それが旅の楽しさになるはずですから。

現在は、第一次ホテルブーム(1960年代前半)と似た状況?

洋大学の国際観光学部は、歴史を遡ると1963年に短期大学部(短大)としてスタートしました。それは、翌64年に開催される東京オリンピックを視野にいれた第一次ホテルブームの最中、ホテルなどのインフラはどんどん整っても、働く人材が不足していたんです。

そこで、英会話ができてホスピタリティ精神もある人材を育成するために、短大として観光学科が設立されました。そういう意味では、今の状況ととても似ています。違う点を挙げるとすれば、外国人観光客の誘致の中で、欧米諸国ではなく、アジア中心というところです。大学でもアジアを重視した形での人材育成を考えています。ただ、私はそんなインバウンドブームには少々疑問を感じている部分もあるんです。

どこもかしこもインバウンド、インバウンドと言っていて、残念ながら日本人観光客が少しおざなりになる傾向があると思います。観光地には、アクセスのしやすさなどで、インバウンドに向いているエリアもあれば、そうでない場所もあると思います。全てのエリアがインバウンド狙いというのは、少し変でしょう。外国からのお客様も大事だけれど、国内のお客様ももちろん大事にして欲しいです。そうすれば、学生のみならず日本人全体の旅行離れもきっと改善されると思います。